不動産取引のIT化
従来は「重要事項説明」は「宅地建物取引士」が「買主」又は「借主」に対して対面にて説明をする事が「宅地建物取引業法」(宅建業法)にて定められていました。
現在もその定めは有効ですが、「対面にて説明」の部分が緩和されました。
賃貸契約は2017年から「IT重説」が可能になり、売買契約は2021年から可能になりました。
これで、不動産に関する契約は一部分が非対面での契約が可能となりました。
そして、2021年5月に「デジタル改革関連法」が成立し、同年9月1日より不動産取引における「押印義務の廃止・書面の電子化」が認められ、その勢いはさらに加速しました。
しかし、一部の契約書では書類での送付・対面での契約が必須となっていたため、契約を完全に電子化するのは難しいという課題がありました。
その後、2022年5月に「宅地建物取引業法」が改正され、書面での記名押印が必須となっていた重要事項説明・売買契約締結・媒介契約締結の電子交付が認められ、不動産に関係する電子契約が全面解禁されました。
IT重説のメリットとデメリット
賃貸・売買ともに「IT重説」が可能になってからまだ日が浅いので、対応している不動産仲介業者はまだ多くは有りません。
筆者は、2019年から国土交通省が実施していた「ITを活用した重要事項説明に係る社会実験」に参加をしていた為、ZOOM等を用いた商談やIT重説に関してはスムーズに対応できていますが、
この記事を書いている時点(2023年3月)では、IT重説に対応している不動産仲介業者は極めて少ないと感じっています。
IT重説のメリット
内容を説明し、質疑応答が行えるなど双方の対話が可能な環境を整えれば、自宅でも出先でも、不動産会社に出向くことなくどこにいても重説が可能なことです。
また、紙で交付するのと違いパソコン・サーバーで管理するため、保管場所に困りません。
不動産の売買契約関係書類は、債務不履行による損害賠償ができる期間の10年間、あるいは不法行為による損害賠償請求権の期間となる20年間は保存を推奨されています。
これらの期間、紙で管理すると保管スペースの問題や、内容を確認する際には大量にある紙面ファイルから人的作業で探さなければならず、手間や時間がかかってしまいます。契約件数が多いほど大変な作業となります。
しかし、膨大なデータの中から瞬時に探せる電子契約書での保管は効率が良いと判断できます。
IT重説のデメリット
電子契約化を図るうえで、セキュリティ対策は欠かせません。
契約書の改ざんや漏洩を防ぐためにも、管理サーバーでデータを一括管理するのは避けるべきでしょう。
契約書のデータを暗号化して保管したり、サイバー攻撃からシステムを保護したりして有事に備えるのが大事です。
また、サーバーのデータが消失しても復旧できるように、毎日バックアップしておく必要があります。過去には、クラウドサーバーの賃貸借契約をしていた会社のデータが、更新手続きミスで消失してしまった事故も起こっています。
業務フローの構築が必要になる
契約文書の電子化を進める場合、電子化が解禁された重要事項説明・売買契約締結・媒介契約締結の書類だけでなく、更新・退去・駐車場の契約書類もまとめて電子化する必要があります。
一部だけ紙面の交付を続けていると管理が煩雑になり、社内普及が難しくなります。
したがって、効率的に電子化を進める為に、各部署全員に対して電子化に関する知識と実際の運用についてレクチャーをして完全に理解をしてもらう必要があります。
取引相手にも電子契約等の環境を整えてもらう必要がある
電子契約が進められるなかで、セキュリティ面や保管方法に不安を感じ、書面交付にこだわっている企業は少なくありません。
電子契約サービスのなかにはアカウント登録が必要なサービスがあったり、セキュリティ対策を講じる必要があったりと、取引先に環境を整備してもらうことがネックになる可能性があります。
したがって、取引相手が電子契約に前向きでない場合は、予めに電子契約(IT重説)のメリットを伝えて理解してもらう必要があります。
しかし、どうしてもIT重説(電子契約)を了承してもらえない場合は、自社で電子文書を保管し、取引先には印刷物に押印して渡す方法もあります。
IT重説の流れ
IT重説を受けるための一般的な流れは以下のとおりです。
実施日時の決定
IT重説を受けたい旨を担当者に伝え、実施日時を決めます。
書類一式を受け取る
IT重説は、重要事項説明書、賃貸借契約書または売買契約書が手元にある状態で受けることが必要です。不動産会社より書類一式(紙面又はPDFファイル)が届くので、事前に目を通しておきましょう。
接続確認を行う
不動産会社からIT重説をおこなうための会議用URLや、利用するツールの連絡が来ます。
不動産会社指定のアプリをダウンロードする必要があったり、スマートフォンを利用する場合はビデオ通話やオンライン会議用のアプリを事前にダウンロードする必要があるため、当日すぐに開始できるよう準備をしておきましょう。
※不動産会社により方法は異なります。最近は、ZOOMを利用した方法が多いです。
IT重説を受ける
映像や音声などの接続に不具合が無ければ、説明をする宅地建物取引士が宅地建物取引士証を画面上で提示し、オンラインでの重要事項説明が実施されます。
重要事項説明を受けるのは契約当事者本人である必要があるため身分証明書の提示を求められることがあります。
重要事項説明書の内容で確認事項や質問等がが有る場合は、必ずその場で確認や質問をするようにしましょう。
不動産会社に書類を返送する
重要事項説明を受け内容に問題が無ければ、
電子契約の場合は電子署名を、紙面契約の場合は各書類に記名押印を行い不動産会社に返送します。
IT重説に必要なもの
- パソコン、スマートフォン、タブレットなどビデオ通話が可能な端末
- 安定したインターネット接続環境(Wi-Fiを推奨)
- 重要事項説明書を含む書類一式(紙面又はPDFフィル)
IT重説は短時間で済むことはあまりありません。
万が一、通信が中断した時は宅地建物取引士は直ちに重説を中止し、問題を解消してから再開しなければならないとされているため安定した接続環境が必要です。
また、移動中やカフェ等でもIT重説を受けることはできますが、手元に重要事項説明書等の書類を置いて説明を受ける場合もあり、本人確認などの会話も行われ、自身の画面上や音声などで個人情報等が表示される可能性が有りますので
個室など周りに人がいないスペースで受けることをおすすめ致します。
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