(じこうりえきのほうき)
「時効」の完成によって利益を受ける者が、時効の完成による利益を放棄することである。
時効利益の放棄は、時効が完成する前に放棄することができない(民法第146条)。これは特に、「債権」の「消滅時効」において、「債権者」が「債務者」の窮状に乗じて、債務者に時効利益の放棄を事前に強いることを防止するための規定である。
ただし、時効完成後に放棄することは自由である。なお、時効利益の放棄と類似した問題として「時効完成後の債務の承認」がある。
時効利益の放棄は「相対効」である。つまり、時効を援用できる者(援用権者)が複数いる場合に、1人が時効利益を放棄してしまっても、他の者はそれに関係なく時効を援用できるということである。
なお「債務」の保証については、時効利益の放棄は次のように解釈されている。
1.主債務者が時効利益を放棄し、その後に保証人が時効を援用した場合
AがBから借金をし、その債務をCが保証した場合、AB間の債務を主債務といい、BC間の債務を保証債務という(保証債務は、主債務が弁済されないときに、補充的に主債務の弁済されない部分を弁済するという債務である)。
ここで、主債務者Aは借金が消滅時効で消滅したにもかかわらず、時効利益を放棄したのであるから、主債務は有効に残存している。しかし、時効利益の放棄は「相対効」であるから、保証人Cは独自に主債務の消滅を主張してよい(これは保証債務の消滅を意味する)。
2.主債務者が時効を援用し、その後に保証人が時効利益を放棄した場合
時効の援用は「相対効」を持つに過ぎないから、Aの時効の援用は、Cに影響しないのが原則であるが、保証債務は主債務の消滅により自動的に消滅するという性質(附従性)を持つので、この附従性を通じて、Aの時効の援用は、Cの保証債務を消滅させる。その結果、保証人Cは時効利益を放棄することは不可能となる(消滅してしまった保証債務を、時効利益の放棄により復活させることはできない)。
従ってこの場合、保証人Cが時効利益を放棄する旨の意思表示をしたことは無意味であり、仮にCがBに対して債務を支払ったならば、その支払い分は本来は不当利得返還請求によりCに返還されるべきである(ただし、民法第705条の非債弁済の規定により、Cは返還を請求することができないという結論になる)。